ある死刑囚のブログに『アメイジング・グレイス 魂の夜明け』が載りました。

ある死刑囚のブログ(ブックレビュー)に『アメイジング・グレイス 魂の夜明け』が載りました。転載の許可をいただきました。許可というより、光栄だとのことでした。

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『アメイジング・グレイス』

神渡良平
廣済堂出版
1800円+税

みなさんはアメイジング・グレイスという
美しい曲を聴いたことがありますか?
この曲を歌う人もいいのでしょうが、
心にしみ入るメロディが印象的な曲です。

この美しい曲が作られた陰には、
黒人奴隷たちの悲しい人生がありました。
本書は、その起源だけではなく、
黒人奴隷のために世間と闘った一人の男の
苦闘と改心の物語です。

主人公はイギリス人のジョン・ニュートン。
時代は1700年代後半から1800年前半となります。
日本式に言えば、少年時代は
「ろくでなし」でした。

ある日、強制的に海軍の兵士にされますが、
そこを逃げて落ち着いたのが、
黒人奴隷の運搬船の乗員という仕事だったのです。
家畜のようなひどい扱いをされる奴隷たちを
見ているうちに、ジョンの胸奥に眠っていた
「良心」が目覚めていきました。

その過程は本書の重要なテーマであり、
ポイントになっているので、詳述しませんが、
ジョンはイギリス国協会の聖職者を目指します。

やがて、願いは成就しましたが、
ジョンは船の中で見た奴隷たちのことが頭から離れず、
この奴隷貿易や奴隷制度という
悪い習慣を辞めさせようと、
運動を始めるのでした。

ジョンの前に立ちはだかる敵は
安価な労働力を使っている商工業者や
貿易で大儲けしている連中です。
運動を始めたのは1779年でした。

ジョンは、さまざまな人に働きかけていきますが、
その中から一人、また一人と
賛同者が現れます。

そうして、国会の議員らの協力を受け、
否決を繰り返した後、
1807年に奴隷貿易廃止(しかし、すぐに奴隷貿易が
なくなったわけではありません)
その後、密輸も続きましたが、とうとう
1833年に奴隷制度(イギリスでは)
を勝ち取ったのです。

アメイジング・グレイスは、
その奴隷たちが過酷な労働を終えた日々の中で
生きる姿を想像していたジョンの脳裏に、
ある日、突然に浮かび上がってきた歌でした。

その歌が、実際に歌い継がれてきて、
現在の曲へと至ったと言えます。
そういう暗黒の歴史があったのですね、
この曲には。

もともと、イギリスの黒人奴隷貿易は、
16世紀中期以降、エリザベス1世と
お主の海賊の共謀で
始まりました。

海賊と言っても、公的には冒険商人と称され、
まだ豊かではなかったイギリスを富さすために、
女王が暗黙のうちに認め、奨励していた連中でした

当時、カリブ海の島では砂糖きび栽培が盛んで、
砂糖は高級な医薬品として
珍重(ちんちょう)されていました。

イギリスをはじめ、
ヨーロッパで砂糖が一大ブームとなり、
砂糖キビ畑も急増したのですが、
酷暑のもとでの「安価で丈夫な労働者」の必要性から
黒人に目がつけられて、
西アフリカ周辺の黒人たちが「商品」として
輸出されました。

女王が深く関与していたのは公然の秘密であり、
公式の文書としては、
ほとんど残っていません。
しかし、当時の損益を表わす書類からは、
1人160ポンド前後で取引されています。

この時、イギリス王室の国家予算は約20万ポンドで、
1回の奴隷貿易で国家予算の5%を
儲けるほどでした。
最初に女王と組んだのは、
大海賊のジョン・ホーキンズで、
この人はその功績で「ナイト」(貴族)の称号を
貰っています。

尚、あの歴史に残る海賊のフランシス・ドレークは、
このホーキンズの家に見習いとして入っていて、
師匠・ボスとしてホーキンズは
子どもの頃からドレークを仕込んだのです。

ドレークと言えばマゼランに次いで
世界一周をした人物(しかも、
マゼランと違って生還した)であり、
1588年に大スペイン(当時)の
「無敵艦隊(アルマダ)」を破る際に
立役者ともなっています。
女王のお気に入りの海賊でもあり、
その稼ぎは国家予算を凌駕したとも
言われました。

本書にありますが、アメリカ南北戦争時に
リンカーンの奴隷解放宣言が出されています
1862年9月22日(施行は1863年1月1日から)。

これ、実は本音は別のところにありました。
まだ二流国のアメリカは、イギリス・フランスなどの
列強からの干渉を避けるために、
ヨーロッパでも支持される「大義名分」として
宣言したのです。

真実のリンカーンは200人以上の奴隷を持ち、
黒人には人権はないと語る人でした。
この辺の詳細は、「日本史の教養」でやりますので
楽しみにしていてください。

それにしても黒人奴隷の人生は悲惨でした。
私も関心があって、多くの書を読みましたが、
労働は日の出から日没まで、
食事は、1日1回か2回、
ノルマ未達成は食事抜き、ムチ打ち、
ひどいと腕を切り落とす、
となっています。

そのノルマも綿花を日に
200ポンド( 約90キロ!! )が普通でした。
船で輸送中に、15~25%も死ぬとありましたし、
それを保険金でカバーするなど、
全くの「物」扱いだったのです。

1807年の貿易廃止後の密輸では、
官憲の船が近付くと、
奴隷たちを海に捨ててしまうのが、
普通でした。

また、輸送中の脱水症状での死を防ぐため、
奴隷貿易の商人は、黒人たちの顔をなめて、
塩分の濃度を確かめています。

これは、体内の塩分が外に出るタイプは、
脱水症状になりやすく、商品としてはダメという意味です。
その影響でアメリカ国内の黒人には、
今も高血圧の人が圧倒的とされています。

さて、著者の神渡さんですが、
もともとノンフィクション・自己啓発などの書が得意な人で、
小説をというので私も驚きました。
必要なことが冗長さを排した文章で、
テンポもよく綴られています。

編集者(女性)の提案もあり、
曲のCDを付けました(何と気がきくことか)。
曲は美しく、物語を貫くヒューマニズムは、
もっと美しいものでした。

しかし、人権差別というのは、
私にはわからないものの一つです。
何故、動物以下の扱いができるのか、
その心理が不思議です。

歴史上、知的な人物として名がある人々も
人種問題となると、
黒人を否定することが少なくありません。
ヴォルテール、モンテスキューと始まり、
この人はそんなことはないだろうと思う
シュバイツァーまでが、
黒人を人と認めていないのです。

そんな憤(いきどお)りを感じつつ、読了しましたが、
着目した点も含めて、
考えさせられる一冊でした。

『花はその花弁の
すべてを失って
果実を見いだす』
(タゴール・詩人)
 
「無期懲役囚美達大和のブックレビュー」より転載


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