中村天風「幸せを呼び込む」思考 神渡 良平著 講談社+α新書 - 九 成就した状態を想い描く

桑原健輔さんの抜粋の第10回目です。

中村天風『幸せを呼び込む」思考        神渡 良平著  講談社+α新書

ヒマラヤ
ヒマラヤ

 

九 成就した状態を想い描く

 

 「一番手取り早いのは、諸君が、何かしら不都合を感じたり、不満を感じる場合があるならば、そういう方面から考えないで、それが完全に成就した姿を自分の心にえがきなさい。ああななったらいいなあ、こうなったらいいなあ、という念願だけを、心に炎と燃やさないで、ああなったらいいなあというものが、すでに、成就してしまったときの気持ちや、姿を、心に描くのだ。

 これは、紙一重の相違だけれども、そこに微妙な相違があるのである。なりたいなあ、という気持ちよりも、なっている姿を、心に描いたときに、現実からほど遠いことでも、霊の世界では、もうそれが、本当になっているのと同じことになるのである」

(『運命を拓く』中村天風著 講談社) 

 

 

 成功者のバイブレ-ション

 これは私たちがよくやる失敗だ。確かに、ああなりたい、こうなりたいと心に思い描くことは、何も考えずにのほほんと過ごすよりも一歩前進ではあるが、宇宙の法則からはまだ少しずれている。

 願望を思い描くのではなく、その夢や目標が成就したときのことを思い浮かべ、そのときの天にも昇るような強烈な喜びや達成感を想像するのだ。すると身を焦がすような強烈な喜びが体をつきぬけ、成功した者のバイブレ-ションが宇宙に発信されていく。

 すると「類は友を呼ぶ」のことわざのとおり、夢や目標を成就させるためのサポ-トがいろいろな方面から集まり、ついに実現にいたるのだ。

 私もそう断言できるのは、私自身この法則を使って、脳梗塞で寝たきりになっていたのを克服し、社会復帰できたからだ。

 私は治りたい、治りたいとの願望を抱いて、右半身の麻痺を克服し、社会復帰できたのではない。そうではなく、治って社会復帰し、元気で頑張っている状態を写真でも見るようにはっきり思い描いてリハビリに精を出した結果、社会復帰まで漕ぎ着けることができた。

 治って社会復帰できることを微塵も疑わなかった。

 ただ私たちは時間・空間の制約がある三次元の世界に活きているから、その過程を一気に飛び越えることはできない。社会復帰できる状態を一年でも半年でも早く来させるために、日常的なリハビリに精を出した。

 だからまったく悲壮がらずに、嬉々としてリハビリに精を出している私を見て、同室の人が言ったものだ。

「あなたを見ていると、まったく病人とは思えない。強化合宿をしているオリンピック選手みたいに、実に楽しそうに、積極的にやっている」

 そう、悲壮感や焦燥感を持ってはいけない。楽しむに限る。すると成果はどんどん上がっていくのだ。

 

 

 貧乏神を招くのはあなた自身だ

「類は友を呼ぶ」ということわざほど宇宙の仕組みを喝破した言葉はない。

 天風が尊敬の念を込めて「哲人」と呼ばれた理由も、この言葉の真の意味を知り、縦横無尽に活用できたからである。

 冒頭に掲げた言葉と同じようなことを、天風は別の角度から次のように話している。

「現在、病をもったり、煩悶をもったり、貧乏な人は、ここいらで反省しなきゃ駄目だよ。『ああ、そうか、私は貧乏神と縁が切れない人間かと思ったら、そうじゃなかった。自分が招いたことなんだ』。

 そうですよ。あなた方のほうでもってウインクを与えるから、貧乏神が来るんだ。変なものにウインクを与えなさんなよ」(『ほんとうの心の力』PHP研究所)

 貧乏神を招いているのは他でもない私自身だというのだ。

 私たちはなぜ貧しいのか、なぜ成功しないのか、いろいろ理由を挙げる。

 失業したから・・・。

 事業がうまくいかないから・・・。

 取引先が支払ってくれないから・・・。

 確かに直接的にはそうだろう。でもそういう事態を招いたのは誰なのか!

 自分以外の何者でもない!

 そこに思い至ると、天風が問題の核心を衝いていることがわかる。天風は畳かけるようにこう断言する。

「『玉磨かざれば光なし』の歌にもあるけど、石も磨けば玉になることがあることを忘れちゃ駄目だ。『私なんか駄目だ』と捨てちゃ駄目だ。百歩譲って、いくら磨いても玉にならないとしてもだよ、磨かない玉よりはよくなるぜ。ここいらが非情に味のあるところじゃないか」

 人のせいにはしない。全部自分に責任がある。もう誰にも頼らない。再出発はここからだ!そう覚悟を決めたとき、不思議にモリモリと力が湧いてくる。

 あれっ、この力は何だ? このすがすがしさは何だ?

 そうなのだ。自分はこの広大な宇宙にただ独り放り出されているのではなく、神がバックアップしてくださっているのだ!これまでは神もバックアップできない自分だったのだ! 

 このことがわかってくると、急に視界が開けてくる。天風の「天馬空を行く」がごとき状態が自分の日常生活に起きてくる。

 

 

 松本啓さんのイメ-ジ作戦

  このことを具体的な例で申しあげよう。

 千葉県市川市に松本啓さんという健康食品のネットワ-クビジネスをやっている人がいる。

 平成十二(2000)年4月、啓さんが、皇室が市川市に持っている新浜御猟場の近くを散歩していると、そこに隣接している福栄4丁目の住宅地に更地を見つけた。まるで呼ばれているかのような感じだった。

 かねて人々が集えるような家がほしいと思っていた啓さんは、この土地にログハウスを建て、「野鳥の館」と呼びたいと思った。松本さん夫婦のラッキ-ナンバ-は4である。何かよい出来事は必ず4に関係していた。啓さんは住所が4丁目となっているので、いっそう心が惹かれた。

 加えてそこの町内会にかもめ自治会という名前がついていた。かもめは啓さんが扱っている健康食品のシンボルマ-クである(当時。現在はイーグルに変更されている)。この不思議なシンクロニシティ(共時性=図り合わせたように、同時に何かが起こること)にも驚いた。啓さんは興奮して小学校の教師をしている奥様の克江さんにこのことを伝え、「どうも新しい家を持てそうだよ」と話した。

 そんなところに、4月14日、今度は克江さんが、産んだ卵を口の中にいっぱい含んでいる鯛の夢を見たのだ。

「そんな鯛なんているのかしら。不思議な夢をみたものだわ」

 と思っていると、教えている児童が教卓の上にあった魚類図鑑のペ-ジをめくり、

「先生、見てよ!そういう鯛が現実にいるんだよ。名前は念仏鯛って言うんだって!」

と教えてくれた。

 念仏する鯛……、夢の鯛の卵……、と考えていると、克江さんが尊敬している高沼道子さんが夢の意味を解釈してくれた。

「それは念仏を唱えるように、繰り返し夢を唱えていれば、実現するということの表れよ。すごい夢をみたわね」

 とは言っても、家の経済状況は火の車で、新築の家を持てるなどとはとうてい思えなかった。千円のお金でも入ると、家電の小売店を経営しているときに借り入れしたお金の返済に回さねばならない状態だった。

 それなのに克江さんは、夫が家を新築してみんなが集まれるような場所を作りたいというのなら、その夢を叶えてやりたい、そしてそれを契機に新しい運勢をつかみ、家の経済状況を好転させたいと思うようになった。

 度重なる奇跡的なシンクロニシティに励まされ、すっかり乗り気になった啓さんは、朝昼晩、件の空き地の前に立って、現実に家が建ち、みんなが集まっているイメ-ジを描き続けた。

 

 

 何かの予兆のシンクロニシティ

 ここで、シンクロニシティについて少し述べておこう。

 打ち合わせも何もしないのに、何かが同時に起き、これから起こることの予兆となることをシンクロニシティ(共時性)と呼ぶ。これまでは「何を馬鹿なことを!」と一笑に付されることもあったが、ここにも科学の光が当たりつつあり、「予兆の科学」とでも名付けることできる状況が生まれつつあるのだ。 

 例えば物理学者のデヴィド・ピ-トはシンクロニシティに科学の光を当て、『シンクロニシティ』(朝日出版社)という画期的な本を書いて世に問うた。その中でピ-トが書いているつぶやきは、私たちのつぶやきでもある。

「私たちの誰もが一つの神秘に直面している。

 私たちはこの宇宙の中に生まれ落ち、成長し、働き、遊び、恋に落ち、そして人生の終わりに死を迎える。

 しかし、このように過ごして生きている間、常に一連の疑問にとらわれている。

 宇宙とはどのようなもので、その中で私たちはどのような位置を占めているのだろう?

 宇宙は何を意味するのだろう?

 宇宙の目的は何なのだろう?

 私たちは何者であり、私たちが生きていることにどのような意味があるのだろう?」

 日中は忙しさにまぎれて忘れてしまってはいるものの、夜独りになって頭上に広がる星空を見上げたとき、あるいは人生の岐路に立たされ、考えあぐね、ため息をついているとき、あるいはまた失恋して自分の存在の意味を見失ったとき、私たちはこの根源的な問いを発し、独り頬を濡らしている。

 そして涙が乾いたとき、私は独りぽっちではないことに気づく。宇宙は私たちをしっかり見守っていて、私たちの問いかけに応答してくれていることに気づくのだ。

 シンクロニシティとは、宇宙から私たちへのレスポンスである。だから私たちは自分の感性をしっかり磨き、アンテナをを研ぎ澄ませておく必要がある。そうなると、今日はどういうことが起きるのだろうか、どういう人に引き合わせていただけるのだろうかと、ワクワク、ドキドキする毎日となっていくのだ。  

 

 

 ただ感謝と歓喜を抱く

  話が横道にそれてしまったので、元に戻ろう。

 同年9月3日、松本さん夫妻と同行したもう一人が、茨城県福原にある出雲大社の分社に詣で、神前で祈ったときのことである。3人はかねがね塩谷信男先生に正心調息法を学んでいたので、日が落ちた社頭でさっそく実践した。深呼吸して呼吸を整え、ログハウスが完成したイメ-ジを描いて祈った。

 祈り終わって目を開けた啓さんはびっくりした。西の空が黄金色に染まり、この世のものとも思えないほど美しかったので思わず、

「克江さん、見てごらん。暗闇が黄金色に輝いているよ!」

と叫んだ。目の前の山は黄金色に輝き、後ろの参道には、何と虹がかかっている! 雨も降っていない。太陽ももう沈んでいる。それなのになぜ虹が? しかも手が届くような距離のところに! これはもう神さまからのメッセ-ジとしか思えなかった。

 そんな神秘的な体験の中で、啓さんの心の中にはっきり言葉が刻みこまれた。

「ただ、感謝と歓喜を抱け! そうすれば夢は必ず実現する!

 いやいや夢は天においてはもうすでに実現しているんだ!だから感謝して喜ぶのだ!」

 その瞬間、「心の使い方を学んだ!」と思った。それを啓さん自身はこう語った。

「何を企画するにしろ、私たちは現実を切り離しては考えられません。いや現実の重さに企画自体がしぼんでしまい、なかなかままなりません。

 しかし、ここが問題だと気づいたのです。

『現実はこれこれだ。しかしそれはさて置いて、私はこうしたいのだ!』

 そして夢の実現に向かって、ただ感謝と歓喜を抱くのです。この『ただ』というのがミソです。何があろうとも感謝し、心から歓喜する!まったく動揺しない。自分が宇宙に向かってバイブレ-ションを発信する堅固な基地になるのだ、と」

 そして9月25日、総二階建てのログハウスの完成図を描き、その画用紙に夢をこう

書き込んだ。

 ・ふれあいの会ができる。

 ・成功者パ-ティができる。

 ・正心調息の会ができる。

 ・宇宙のリズムが実践できる。

 ・宇宙波動の発信基地だ!

 ・「おふくろの味」パ-ティができる。

 ・「ビ-トルズクラブ」ができる。

 それを寝室の天井に貼り、起きるときも寝るときも目に入るようにした。

 ところで最後の「『ビ-トルズクラブ』ができる」という夢は、少々説明しないと一般にはわかりづらい。

 啓さんが商品を取り扱っている健康食品会社では、いろいろなボ-ナス制度が用意されている。それで啓さんは仲間たちと、その中の一つである「カ-・ドリ-ムボ-ナス賞」を獲得して、青春時代ワクワクした色とりどりのビ-トル(フォルクスワ-ゲン社製)を50台、100台と連ねて、高速道路をドライブする夢を実現しようというのだ。

 平成16(2004)年4月1日、啓さんは新築の話がまだ影も形もないのに、

「来年11月3日に新築のログハウス『野鳥の館』をお披露目するのできてほしい」

という案内状を仲間たちに出した。家が建つという確信はまったく揺るがなかったが、この時点でも家の建築に取りかかれる金銭的目処は立っていなかった。

 

 

 志や夢が成就した

 季節が移り変わるのは早い。あっという間に秋がきて、涼しい風が吹くようになった 10月24日、金銭の目処がつかないまま、件の空き地を扱っている不動産屋に会って依頼し、11月8日にも再度会って話をした。しかし不動産屋は、「家は夢では建ちません。現実を聞かせてください」と迫った。そこで抱えている借入額を話すと、不動産屋はイスからひっくり返ってしまい、

「それじゃあ銀行融資は受けられません。いったいどうしたらいいんでしょう・・・・・・」

と嘆きつつ帰っていった。案の定、銀行の支店長はまったく可能性なしと判断し、その商談はこれ以上進めないようにと指示した。しかし松本さん夫妻の熱い夢にすっかり同調していた銀行の担当者は粘りに粘って、銀行融資が取り付けられるよう知恵を絞ってくれたのだ。

 そして綱渡りの末に銀行融資がされ、平成17(2005)年1月27日、本契約に漕ぎ着けた。工事には9ヶ月かかったが、10月16日、ついに完成した新居に引っ越しした。

 1年半前に予告したとおり、11月3日に新居のお披露目をした。「野鳥の館」が完成に至った奇跡的経過を知っている仲間の椿明子さんが、翌年の年賀状にこう書いてきた。

「啓さん、気づいていましたか? この新居が建ったのが酉年の昨年だったから、『野鳥の館』と呼べますが、もし申年の一昨年だったら『野猿の館』、もし今年にずれこんでいたら、今年は戌年だから『野犬の館』になるところでしたね。間一髪の夢の実現、おめでとうございます」                                 

 それを受けて、ある人は感想を述べた。

「それにしても今度のことでは、啓さんの信念にはほとほと感心したよ。志や夢はどういうふうに成就するのか、まざまざと見せられたもの。ありがとう、ぼくにとってもいい勉強になった」

 この新築大作戦を通して、神は多くの人を啓発したのだった。

 

 

 すべては宇宙からのプレゼント

 一連の出来事を経験して、啓さんは結論としてこう語った。

「借り入れの返済に追われている中で、家が建ったのですから、奇跡としかいいようがありません。すべては宇宙からのプレゼントです。過ぎてみれば、何一つ無駄なものはありませんでした。全部必要な道程でした。

 そんなことから、現在私は『唯今をわくわく生きる!』を信条にするようになりました。今は将来のことをくよくよ悩まないようになり、人生を大いに楽しめるようになりました。

 インスピレ-ション(直感)による着想には、現実的にはいささか無理と思えるようなものであっても、ワクワクドキドキ感があります。これを大切にしたら、実現に漕ぎ着けることができます。

 天風さんはこうなったらいいなあという願望を抱くのではなく、それが成就したときの気持ちや姿を完了形で思い描けとおっしゃっていますが、私もそこに物事が成就する秘訣があるように思います」

 啓さんはこの体験を通して、次の夢の実現を確信して、日々ワクワクしている。実際、この人ほどその日その時の出会いを楽しんでいる人はいないだろうなと思った。

 野鳥の館は今日も仲間たちであふれ返っていた。