日別アーカイブ: 2020年9月5日

中川千都子さん講演

沈黙の響き (その10)

2020.9.5 ウィークリーメッセージ「沈黙の響き」(その10

「言葉は人格形成の中核だと気づきました」③
  中川千都子さんが闘病生活でつかんだもの

神渡良平

 

とうとう薬を服用することをやめた!

その後も抗ガン剤などの治療は続きました。でも抗ガン剤は正常な細胞にもダメージを与えてしまうなど、必ず副作用があります。それで思い切って、「薬を止めたいのですが」と申し出ました。すると主治医は「何を考えているんですか? 薬を使わないなんて非常に危険です」と反対されました。使用していた薬は5人に1人の割合で別の部位に癌を発症する可能性があるとされているものでした。中川さんは内心、そんな薬に頼るのではなく、「ありがとうございます」という言葉の効用に賭けてみたいという思いがありました。医師との話し合いの末、定期検診は受けるという条件で、すべての薬の治療はやめることになりました。

 

 そうこうするうちに、次の検診の日がやってきました。その間、何ら医療的な処置をしていないにもかかわらず、ガンマーカーの値が下がっていたので、医師はびっくりしました。「ありがとうございます」という言葉は単に心地よいという程度のものではなく、現実に働きかける力があるということを科学的データで歴然と見せてくれたのです。

中川さんは病院に通う必要がなくなり、通院は止めました。「魔法の言葉」はガンに効くだけではなく、日常生活も仕事もすべてにおいてどんどん好転していきました。

 

すわ、再発!

ところが平成21年(2009)、予想外の部位にがんが認められました。主治医に恐る恐る「前の乳ガンが再発したんですか?」と訊ねると、「再発ではなく、まったく別の原発性のガンが認められました」との返事に、中川さんは「ああ、よかった」と(あん)()しました。というのは、転移とか再発だったら、抗ガン剤を止め、治療を続けなかったことが失敗だったということになるからです。

そうではなかったことがせめてもの幸いでした。それに前回のガンから得たものが大きかっただけに、今度のガンからは何が学べるんだろうと思い、不安はありませんでした。

 

とはいえ、新たなガンの手術は肉体的にはダメージが大きく、寝たきりとなり、寝返りが打てない状態にもなりました。食事は自分ひとりではできず、下の世話もしてもらいました。かつての“勝ち組志向”のままなら、何とも惨めで情けない状態になりました。

しかし、このときの中川さんはただただ感謝でいっぱいだったので、どういう状態であっても心の中で「ありがとうございます」をずっと言い続けました。そのうちに体が半分だけ動かせるようになり、自分で食事を摂ることができるようになりました。寝たきりから車イスとなり、洗面所にも自力で行けるまでになりました。

 

水をジャーっと出し、洗顔料を泡立てて、自分で顔を洗えることもすごいことだなあと気づきました。考えてみたら生きている毎日というのは奇跡的なことの連続なのに、その奇跡にまったく気づいていなかったのです。やがて車イスから歩行器に移り、さらに自分の足で歩けるまでになりました。毎日発見する奇跡に驚いて感謝し、心楽しくありがたい日々でした。

 

ところがその後、またも新たな原発性のガンが違う部位に見つかり、何度も手術を余儀なくされ、入退院を繰り返しました。それでも、何があっても、「ありがとうございます」を心の中で言っていると、「これも意味あることに違いない」と、前向きに思えてくるから不思議です。

 

それでも、“ありがとう”と感謝し続けた

たび重なる手術をし、さらなる手術が控えているのにもかかわらず、いつも陽気で心配などなさそうな中川さんの様子に、同室の患者さんたちが不思議がって訊きました。

「怖くはないの? 何でそんなに楽しそうなの?」

そんな問いかけに中川さんは返事しました。

「だって生きてるってすごいことやなぁっと感じて、うれしいの。今こうして確かにここに生きていることが本当にうれしくて、ありがたい! こんなに美しくて不思議な地球というワンダーランドに生きていることが楽しくて、おもしろくて、ありがたくて、感謝しかないのよ」

 中川さんの瑞々(みずみず)しい感性は、毎日新しい不思議を発見して、ひとり感動し、興奮していました。(続く)

 

※写真:企業や地域の集まりで体験を語る中川さん