2020.12.19 ウィークリーメッセージ「沈黙の響き」(その25)
教育はいのちといのちの呼応です!⑭
超凡破格の教育者 徳永康起先生
神渡良平
≪お供えの飾り餅を食べてしまった!≫
昭和16年(1941)1月、宗起さんが寮長として香川県坂出市の少年収容施設・瀬戸内寮に勤めているときのことです。大阪の希望館が模範的な産業挺身隊に変わっていったように、瀬戸内寮も新しい徳永寮長の元、変わりつつありました。
ところが寮長が不在のとき、保護少年たちが食堂に供えられていた正月の飾り餅を焼いて食べるという不祥事が起きました。大東亜戦争が始まって物資や食糧が欠乏していたので、腹を空かせた少年たちが飾り餅を焼いて食べてしまったという事情はわかります。しかし宗起寮長は少年たちを厳しい口調で叱りました。
「君たちは、何という情けないことをしたのか。これは普通の餅じゃなくて、神さまへのお供えの餅だぞ。こんな愚かな行為で、私たちの産業挺身隊全体の名誉を傷つけてしまったではないか。些細な行為とはいえ、私は不問にすることはできない。不問や見逃しは次の失敗に繋がるからだ。従ってしっかりとケジメをつける必要がある」
50名ほど寮生がいる瀬戸内寮は産業挺身隊の名前で造船所や鉄工所などに人員を派遣し、優秀な成績を収めて表彰され、それが誇りとなっていたのです。でも、少年たちはたかが飾り餅を食べたぐらいで何だと軽く考え、せせら笑いすら浮かべていました。でも寮長は真剣です。
「今から、その責任者を処罰する。だがその前に君たちは私の言い付け通りに実行することを誓うか!」
と全員に、「従います」と強引なまでに約束させました。
その瞬間、寮長の中にイエスの声が臨みました。
(罰されるべきなのは彼らじゃない、お前だ。お前の姿勢は私のものとは似ても似つかず、パリサイ人そのものだ!)
それにはギョッとしました。明らかにイエスの声です。
(人を悔い改めさせるのは律法ではない! 愛だ。あの女が悔い改めたのは、『姦淫してはならない』という律法によってではなく、私があの女に流した涙ゆえだった。いま寮生たちを罰したら、みんなは態度を硬化して、お前をますます拒否し、逆の結果を招くことになってしまうぞ)
寮生を罰すべきではないという瞬時の教えでした。
≪罰として往復ビンタ百発!≫
「罰として責任者には、みんなで左右往復2発のビンタを食らわせる。いいな!
この寮の最高責任者はこの私だ。真っ先にお詫びしなければいけないのは私であって、懲罰を受けるべきなのは私だ。サアみんなで私を処罰して、ビンタを食らわせ!」
そう言って頭を差し出しました。一同は唖然とし、動揺が走りました。寮長はちっとも悪くないのに、なぜ寮長をお仕置きするの? でも、寮長は一人ずつ前に進ませ、順番に自分の頬を平手打ちさせました。遠慮して軽く叩いた者には、「駄目だ! もう一度やり直せ」と叱責し、再度叩かせました。
そのため宗起寮長の両頬は何十発もの往復ビンタを食らい、頬が赤く腫れ上がり、口の中が切れ、唇から血がしたたり落ちました。まさかの展開に寮生が涙声で、「先生、許してください。とても叩けません」とお詫びしました。でも寮長はふらふらして傾いてしまう体を奮い起こし、「駄目だ、約束だ。ちゃんとお仕置きしろ」と怒鳴りました。
みんなは正視できなくて、ある者はうつむき、ある者は天を仰いで必死に涙をこらえています。列の中で誰かが口を押えて嗚咽しています。叩く順番が回ってきた者が、
「先生、駄目です。かんべんしてください。とても叩けません」
と泣きだしました。徳永寮長は立っているのもやっとでふらふらで、よくぞ気を失わなかったものです。こうして50名全員が終わるころにはみんな泣いていました。
「先生、すみません。もう二度とやりません」
「さあ、終わった。みんな、厳しく折檻してくれてありがとう。私も心を入れ替える。これから瀬戸内寮が新しく出発する。お祝いしよう!」
寮長は腫れあがった顔で、血糊がついた手のままで一人ひとりと握手し、再出発できたことを喜び合いました。(続き)