日別アーカイブ: 2021年11月12日

太平洋を見晴るかすサンメッセ日南のモアイ像

沈黙の響き (その75)

「沈黙の響き(その75)」

モアイ像を日本に導いた暁の祈り

 

 

 

≪人間は無限なる存在が肉体を持って有限化した存在だ!≫

 大正から昭和にかけて世の中に多大な影響を与えた東洋思想家安岡正篤先生は『運命を開く』(プレジデント社)のなかで、実に深遠な人間観を語っておられます。

「人間というものは、ある全きものでなければならない。人間の生命というものは、無限にして永遠なるものです。その偉大な生命が何らかの機縁によって、たまたま一定の存在になり、一つの形態を取るのです。

そこで我々が存在するということは、すでに無限の限定である、無限の有限化であるということを知る必要がある。この有限化を常に無限と一致させるということが真理であり、道理であり、道徳であります」

 

つまり大宇宙の本質である究極実在が何らかの機縁によって有限化して、目に見える形になっているのが人間だというのです。人間はその人生をかけて不断の努力をして人格を神にまで高めていくことが求められていると説いておられます。人生とは自分をいつも祈りによって啓発し、根源なる存在と一致させるものだと説かれます。

 

≪日南海岸に設置されたモアイ像≫

祈りを通して、いま何をなすべきかということがだんだん明確になってくるという好例が、一燈園が日南海岸で経営しているサンメッセ日南開設の事例です。

一燈園は昭和の後半、日南海岸にある25へクタールもの和郷(わきょう)牧場で、黒毛和牛を生産していましたが、経営に行き詰まって閉鎖していました。しかし、平成5年(1993)、地元の日南市宮浦は村おこしのためにも、牧場跡地を何らかの形で再開発してほしいと希望してきました。そのプロジェクトに2つの企画案が上がっていましたが、一燈園当番(代表者)の西田多戈止(たかし)さんはどちらの案にも決めかねて迷っていました。

 

 日南市と宮崎市を結ぶ国道220号線脇のドライブインで企画会議を行っていたのですが、なかなか結論が出ず、重苦しい雰囲気になっていました。多戈止さんは気分転換に会議を抜け出し、牧場跡の丘に登りました。広大な牧草地の前方には紺碧の大海原がどこまでも広がっていました。

 

 それを眺めていると、いつの間にか日が暮れ、あたりを静寂が包んでいました。崖下の国道を走る車のヘッドライトも上までは上がってきません。ふと気がつくと、前方の海に小さな灯りが点々と点いていました。漁火(いさりび)です。漁師たちが漁をして、大海原から大自然の恵みをいただいているのです。

 

その灯もいつしか消え、頭上には満天の星がきらめきだしました。多戈止さんは自ずから瞑想に入り、夜空に銀の砂をまき散らしたような銀河の淵にたたずんで、忘我の世界に遊んでいました。夜の冷え込みもさして気にならず、坐ったままうとうととしていました。

 

≪暁に祈り、太陽からのメッセージを受け取った!≫

うたた寝からふと目が覚めると、東の空が白々と明け始め、水平線が左右にゆっくり広がっていきました。目の前で荘厳な日の出が始まり、ただただ無心に見入りました。

太陽が水平線に近づくにつれ、水平線上の雲の輪郭が光で白く縁どられ、(あかね)色に染まっています。太陽が水平線から顔を出すと、光の帯がサーッと海面を走り、キラキラと輝いて、多戈止さんのところに届きました。

 

その瞬間、(光の帯を通して、太陽が私に話しかけているようだ! 私たちは心が通じ合っているのだ……)と思いました。光の帯をたどって幻想が広がっていきます。

(太平洋の向こうには何があるのだろうか……

ハワイだろうか……何の島だろうか……

さらにその向こうには南太平洋が広がっており、イースター島があるんだろうな……)

 

太陽は多戈止さんをイースター島に結びつけてくれたのです。

(イースター島といえば世界の7不思議といわれるモアイ像がある……

その昔、高さ5メートルを超す巨大な石像が建造されたそうだけど、その目的も何もわからないまま謎に包まれ、石像はただ南太平洋の海原をじーっと見詰めている……)

思いがイースター島に及ぶと、思考の焦点が定まってきました。

 

(そうだ! もしイースター島のモアイ像をここに持ってきて、太平洋と南太平洋を間に挟んで、イースター島のモアイと日南海岸のモアイに地球環境について対話させたらどうだろう。

もうこれ以上地球を汚してはいけない。このまま地球汚染を放置しておくと、イースター島がたどったような滅びの道に陥ってしまうと、地球再生という大きなメッセージを投げかけてくれるのではなかろうか)

 

 暁の祈りのなかで、多戈止さんはモアイ像を設置しようという結論に導かれていきました。

 ドライブインでの会議に戻ると、多戈止さんは昨晩満天の星空の下、太平洋を眺めながら考えたことを話しました。

「もしモアイ像を設置したら人々の関心を引くでしょうし、地球再生という大切なメッセージを送ることができると思いますが、どうでしょうか?」

 

 すると検討チームの一員からすぐさま反応がありました。

「モアイ像というアイデアはすばらしい。誰もが興味を持ちますよ」

 すると他の人が新たな情報を語りました。

「この間テレビニュースで、日本のチームがイースター島で倒壊したモアイを修復していると報じられていました。確か、クレーンのタダノが資金を提供し、奈良国立文化財研究所と長年石の建造物を扱ってきた石屋さんと一緒になって修復に乗り出したとか」

 

 タダノと聞いて多戈止さんはびっくりしました。

「多田野弘会長ならよく知っています。タダノは一燈園の研修に社員や奨学生を参加させているんです」

 そう答えながら、モアイを日南海岸に建造することは可能かもしれない、いやできそうだと予感しました。多戈止さんが暁の祈りのなかで着想を得たとき、地球の反対側のイースター島では修復工事が進められていたのです。さっそく調べてみると不思議な事実が判明しました。(続き)

太平洋を見晴るかすサンメッセ日南のモアイ像

写真=太平洋を見晴るかすサンメッセ日南のモアイ像