日別アーカイブ: 2021年12月3日

みんなの希望であるかっこちゃん先生

沈黙の響き (その78)

「沈黙の響き(その78)」

障害を持っていることが嬉しいと語る障害児たち

 

 

 もう一つの事例を紹介しましょう。かっこちゃんの大切なお友達の一人に久美ちゃんという女の子がいます。久美ちゃんは生まれたときから目も見えず、耳も聞こえず、従って学校にも行っていませんでした。昼夜がわからず逆転しているので、育てるのが大変でした。それに自分の気持ちが通じないと暴れて、家具を倒したり、両親の髪を引っ張ったりして、抵抗しました。だからとても粗暴な子と思われていました。

 

久美ちゃんは食欲が旺盛なのでどんどん食べてしまい、150キログラムになってしまいました。あるとき暴れる久美ちゃんを押さえようとして、お父さんの肋骨が折れてしまい、入院しました。お母さん一人ではとても世話ができないので、中学校の隣の施設に入所しました。

 

 久美ちゃんは突然、両親がいなくて勝手がわからない施設に入れられたのでパニックになって暴れました。暴れると教職員がはがい絞めにして押さえ込みますが、それは久美ちゃんにとっては恐怖でしかありません。ますます暴れ、それを押さえようとしてある教職員は骨折し、ある教職員は髪を掴んで振り回されて、髪が抜け落ちてしまいました。

 

≪目も見えない、耳も聴こえない久美ちゃんに起きた奇蹟≫

中学2年生になった久美ちゃんは担任がかっこちゃん先生になりました。誰もが、かっこちゃんもすぐ骨折するよと同情しました。しかし久美ちゃんは、この人は危害を加えない先生だと感じたのか、ハグしてくれました。かっこちゃんはどうやって久美ちゃんとお話ししようかと考えました。

 

視覚も聴覚も駄目なら触覚がある――これを使って久美ちゃんの心に届く方法はないかと工夫して、手を胸に当てて指を使って、

「わたしは“かっこ”と言うの。あなたは“くみこ”ちゃんという名前があるの」

とくり返し教えました。周りの先生たちは絶対無理だと言いましたが、かっこちゃんは駄目でもいいと思って根気よく続けました。するとある日、久美ちゃんがかっこちゃんの手を懐に入れ、「かっこ」と綴ったのです! 

 

かっこちゃんは、え~! と驚き、毎日くり返したから覚えたのかなと思いました。次の日、久美ちゃんは自分のことを指して“くみこ”と言いました。こうして驚きと感動のごちゃまぜの中でコミュニケーションが始まりました。

 

≪かわいい! と言われることが大好き

久美ちゃんは「かわいい!」と言われることが大好きです。そこで久美ちゃんの手に、「一緒にお風呂に入ろう。そうするともっとかわいくなるよ」と書き込みました。久美ちゃんは喜んでお風呂に入りました。

 実は久美ちゃんはお風呂が大嫌いで、それまで10年間も入っていませんでした。(あか)は1センチくらい溜まっていて臭いがしており、髪も洗わないので、スズメの巣よりもひどい状態でした。

 

ところが石鹸をつけて体を洗い、たくさんの垢が取れると真っ白な肌が現れました。髪もきれいに切っておかっぱにしたので、日本人形のようにかわいくなりました。かっこちゃんは久美ちゃんを抱きしめてキスし、手のひらに指でメッセージを送りました。

「すごい、すご~い。久美ちゃん、最高にかわいいわよ!」

 

 服はそれまでおじさんが着るようなグレーのジャージーを着ていたので、女の子らしいかわいい服を着せたいと思いました。でも150キロもある巨漢の服なんてどこにも売っていません。そこでかっこちゃんは自分でミシンを踏み、ワンピースを縫って着せました。久美ちゃんは、「わー、最高にすてき!」と称えられて、とってもうれしてはしゃぎました。久美ちゃんは女の子なので、おしゃれしたかったし、かわいいよと頭を撫でられたかったのです。

 

 4月、桜が満開に咲く季節、面会の日がやってきました。久美ちゃんは髪に桜を飾って大好きなお母さんを迎えました。お母さんは久美ちゃんが大好きなお餅や食べ物を持ってやってきました。かっこちゃん先生をすぐ見つけて挨拶されましたが、隣にいる女の子が誰なのか気づきませんでした。でも、ひょっとしたら久美子かもしれないと思い直した瞬間、久美ちゃんだと気がついてあっけに取られ、荷物をポトンと落としてしまいました。

 

「そうですよ。久美ちゃんです!」

「えっ、信じられない! 一体全体、何が起きたんですか?」

 そこでかっこちゃん先生は一部始終を話しました。

「久美ちゃんは頭がいいんです。こんなふうに全部わかるんですよ」

「そのやり方を全部教えてください」

 

 お母さんはすぐにやり方を覚えて、お母さんと久美ちゃんのコミュニケーションが始まり、生まれて初めての母子の会話がなされました。お母さんは「久美子~」と言って泣き、久美ちゃんはそのお母さんを抱きしめ、涙を拭き、頭を撫でました。こうして一週間後、久美ちゃんはお母さんに連れられて家に帰っていきました。

 このように少女のように純粋無垢なかっこちゃん先生に担当されると、障害児たちに奇蹟が起きたように開放されていくのです。それはフランチェスコの周りを飛び交った小鳥たちと同じでした。

 

≪ドキュメンタリー映画『1/4の奇跡――本当のことだから』≫

平成11年(1999)、山元先生はたまたま、NHKスペシャルで「驚異の小宇宙 人体Ⅲ――遺伝子」が放映されたのを観ました。障害を抱えた子どもたちを長年世話してきたので、この子どもたちはなぜこんな十字架を背負っているのだろうと、ずっと問題意識がありました。テレビ番組はその問題意識に科学的に答えてくれたのです。

 

アフリカのとある村でマラリアが大発生し、絶滅しそうになりました。幸いにして踏みとどまり、絶滅は免れました。そこで医師や科学者たちが詳細に原因を調べた結果、不思議なことが判明しました。その村にはマラリアにかかりにくい

人がいるというのです。

通常、私たちの赤血球はハンバーグをつぶしたような形をしています。ところがマラリアにかかりにくい人は草を刈る(かま)のような形をした「鎌状赤血球」を持っていました。この遺伝子を持っている人たちの家族や親戚を調べると3つのグループに分けることができました。

 

Aグループ:鎌状赤血球を持っておらず、障害も持っていない人たち。全体の1/4。

Bグループ:鎌状赤血球を持っていて、障害もない人たち。全体の2/4。

Cグループ:鎌状赤血球を持っていて、その遺伝子が原因で障害を持っている人たち。全体の1/4。

マラリアが大発生したとき、Aグループは全員死亡し、生き残ったのは鎌状赤血球を持っているBとCのグループでした。テレビ番組では、マラリアに強くて障害がないBグループが存在すると、必ずある一定の割合で障害を持ったCグループも存在するという事実を突き止めました。つまり、障害を引き受けた1/4のCグループがなければ、健常なBグループは存在せず、その村は絶滅したに違いないというのです。

 

山元先生は感銘深く番組を観終わって、深く納得するものがありました。

「もし、障害者はいらないと排除してしまったら、マラリアに強くて障害も持っていない人は決して生まれてこないといえる。今こうして私たちが元気でいられるのは、障害を持ち、苦しんで生きている人たちのお陰で、障害者は私たちにとってかけがえのない存在なのだ」

 

≪必要でない人は一人もいない!≫

山元先生は常々障害児たちが素晴らしい力を秘めていると感じていたので、その気づきを話すと、みんなが共鳴してくれました。ある日、重度の障害を持っている雪絵さんがかっこちゃん先生にお願いしました。

「私の障害と病気には大切な意味があるのね。病気や障害も大切。そして一人ひとり違うことも大切。誰もが大切なんだということを、世界中の人が当たり前に知っている世の中に、かっこちゃんがして!」

 

約束したいのは山々ですが、一介の介護学校の教師でしかない自分に一体何ができるのでしょう――山元先生は考え込んでしまいました。ところがかっこちゃんのメッセージに共感した主婦の入江富美子さんが家庭用のハンディ・カムで記録を撮り始めました。考古学者からインカ文明の話を聞くと、障害児たちと共通するものがありました。そこでインカ帝国や宇宙の神秘とのつながりも紹介し、一人ひとりの存在理由をスピリチュアルな視点からも探っていきました。

 

かねてからかっこちゃんの大ファンである脳科学者の村上和雄筑波大学名誉教授(故人)も「大自然が作った最高傑作が人間です」と述べ、かっこちゃんの直感を裏付けてくれました。こうして命の尊さを異次元の世界から説く心温まるドキュメンタリーが完成しました。

 

それがドキュメンタリー映画『1/4の奇跡――本当のことだから』です。この映画は上映と同時に評判を呼び、英語版ができ、フランス語版ができるなどして、海外でも上映されています。ハーバード大学でも上映され、予期しないことに、スタンディング・オベーションまで受けました。

 

映画を観たある観客はこんな感想を述べました。

「こんな映画もあるんだと素直に泣け、心が洗われました。こんなにも優しく温かいメッセージを与えてくれるとは。心の目を凝らし、心の耳を澄まして観てください」

映画はすでに9か国語に訳されて19か国で上映され、これまで30万人余りが観るほどのヒットとなりました。あれよあれよという間に、雪絵さんとの約束が果たされました。

 

現在、障害児たちとの交流を描いたかっこちゃんの著書は、『きいちゃん』(アリス館)をはじめ、38冊に及んでいます。講演は毎週どこかの市町村で行われており、年に約50回は下らず、子育て最中のご婦人たちに多大なヒントを与えています。神さまは見事にかっこちゃんを用いて、人類の新しい未来を切り開いておられるようです。

みんなの希望であるかっこちゃん先生

写真=みんなの希望であるかっこちゃん先生