ママさんたちへのアドバイスがキラリと光る木村まさ子さん

沈黙の響き (その79)

「沈黙の響き(その79)」

「感謝して食物のいのちをいただきしょう」と語る木村まさ子さん

 

 

 121日夜、「光の雫」が主宰するZoomの「わくわくまったりチャンネル」で、映画俳優の木村拓哉さんを育てた木村まさ子さんと対談しました。ちょうど前日、木村拓哉さんが第46回報知映画賞で映画「マスカレード・ナイト」によって主演男優賞を受賞されたところだったので、そのお祝いを述べて対談が始まりました。

 

 木村さんとは渋沢栄一さんのお孫さんで今年100歳になった鮫島純子(すみこ)さんが主賓のお茶会などでご一緒することがあり、言葉を交わすたびに、「すてきな方だな。鮫島さんと同じようにやわらかいオーラに包まれていらっしゃる」と思っておりました。

 鮫島さんは良家の子女という以上に、天性の天真爛漫なものをお持ちの方で、ご一緒しているとこちらもいつの間にか裃を脱いで、自由闊達になってしまいます。

 

 木村まさ子さんもまた木村拓哉さんを育てた人という以上に、聴く人を元気にしてくださる講演家として知られています。

「お話をお聴きするうちにやさしいオーラに包まれ、すっかり元気をいただきました!」

 昨夜の対談のあと、涙を浮かべて感想を述べた方もありました。屈託のない人柄が愛されて、バブル以前は講演が月に15回は下らないぐらいあったそうです。私も対談しながら、すっかり心が満たされてしまいました。

 

≪子どものころ、狭いアパートに突然引っ越しせざるを得なくなった!≫

「まさ子さんのお人柄はどうやって形成されたんですか。よほど立派な家でお育ちになったのでしょうね」と問いかけると、やんわり否定されました。

「いえ、普通の勤め人の家庭です。でも小学生のとき、とても学ばされた出来事がありました。父が友人の保証人になったことから一夜にして家や財産を失ってしまい、狭いアパートに引っ越さざるを得なくなりました。子どもの私は突然襲った激変が理解できなくて、父に食ってかかりました。

 

『こんなに迷惑を受けたのに、お父さんはどうしてお友達を怒らないの?』

 すると父はお前たちに迷惑を掛けて申し訳ないと詫びながら、

『でも私は友人を恨まない。私はこの程度のことはまだ耐えられるから大丈夫だよ。それに窮地に陥っている友達の再起を手伝えるから、むしろいいことだと感謝している』

 と、あっけらかんとしているんです。父の口から恨み言は一切出てきませんでした。

子どもの私には理解できませんでしたが、とてつもなく懐が広い父だなと思いました。そんな父の生き方が陰に陽に私に影響を与えました」

 

 まさ子さんはそんな家庭で育ったので、私が話した大阪の辻光文(こうぶん)先生(故人)が気づかれたことに大きく共感されました。

 

≪生きているだけではいけませんか?≫

 大阪府は非行少年少女たちの更生教育として、しっかりした教師夫妻の家庭に子どもを預け、親子の絆を育てることから更生教育を実効あるものにしようして、高槻学園を始めました。辻光文先生はもともと臨済宗の僧侶ですが、葬式仏教になってしまっているお寺に嫌気がさして、自分をもっとも必要としている非行少年少女たちの教育に挺身しようと更生教育界に入った人です。

 辻先生は長年預かった子どもたちを立派に立ち直らせ、巣立ちさせました。ある年、1人の少女が入所してきました。B子さんは影響力がある子だったので、またたく間にボス的存在になり、せっかく落ち着いてきた子どもたちがその子に引きずられ、再び恐喝や万引きをするようになってしまいました。

「あぁあ、せっかく落ち着いてきたのに、これじゃあぶち壊しだ。あの子さえいなかったら、こんなことにはならなかったのに……」

 と、ついつい愚痴が出てしまいます。教師たるものがこんなことを思っちゃいけないと思いますが、どうしてもB子さんを排除する気持ちが出てしまのです。

 

≪ただただ助かってほしい……≫

そんなある日、B子さんが脳腫瘍と診断され、緊急手術しました。辻先生は手術室の前の廊下で、どうか助かってほしいと祈り続けました。手術が終わって手術室から出てきた医師はこわばった表情をして、あるいは助からないかもしれないと洩らしました。辻先生は毎日病室に通って看病を続けました。いい子にならなくてもいいから、ただただ助かってほしかったのです。

 

 辻先生の親身の看病を受け、B子さんはどんどん明るくなり、反抗的な態度が消えていきました。そこで辻先生はハッと気づきました。

(私はB子にあああってほしい、こうあってほしいと願望ばかり抱いてきたけど、本当には受け入れていなかったのではないか。私のそんな思いがB子を反抗的にしていたのではないか。……ああ、私は間違っていた。私は無条件であの子を受け入れ、むしろ生きているだけでありがたいと思うべきだったんだ)

 教育云々の前に、生徒たちの魂に手を合わせて拝むことが必要だったと気づきました。辻先生が大きく変わったので、学舎に笑い声が満ちあふれるようになりました。

 

 大阪府教育委員会は高槻学園が大きく変わったのを見て、矯正教育に携わっている教師たちの研修会は辻先生を招き、Bさんを通して目覚めたことを話ししてもらいました。

 辻先生は目から鱗が落ちた経験を、「生きているだけではいけませんか?」と題して語りかけました。

「親が社会的メンツに駆られて価値観を一方的に押し付けると、子どもは絞めつけられたように感じて不自由になってしまいます。すると反抗して教育どころではなくなってしまいます。その子に対して祈りや感謝に裏打ちされて向き合わないと、子どもの内的生命は阻害されてしまいます」

 辻先生方の話は他の先生方にしみ込み、大阪府の更生教育は一段と深くなりました。

 

≪感謝して食物の“いのち”をいただきましょう!≫

 まさ子さんはその話に共感を覚え、心身障害者の施設に呼ばれていったときのご自分の体験を話されました。収容されている子どもの中には、口に鉛筆をくわえて字を書き、足の指にボールペンを挟んで書くなどしなければならない重度の障害を持っている子もいます。まさ子さんが与えられたテーマは“いのち”が、その子たちが背負っている十字架と同じように、重たいテーマでした。

 

 まさ子さんは以前、東京都で13年ほどイタリアンレストランを経営していたことがあり、食についていろいろ気づかされることがありました。料理の味はもちろん大切ですが、みんなでおいしく食事ができる雰囲気もそれと同じように大切です。そこでその点にも心を配り、お客様に喜んでいただける評判のレストランとなりました。まさ子さんはそのときの経験を話そうと思いました。

 

「食べるということは野菜や魚やお肉の“いのち”を自分に移し替えることなんだよ。だから感謝していただこうね。ニンジンさんやキャベツさんの“いのち”を感謝していただくと、食べた物はみんなの“いのち”を内側からもっともっと燃やしてくれるの。ありがたいね」

 そんな話がみんなの心にしみ入ったようでした。

 

 すると数日してみんなから感想を書いたお礼の手紙が届きました、口に鉛筆をくわえ、足の指にボールペンを挟んで書いたので、わずか数行の手紙でも何時間もかかったに違いありません。ありがたい手紙だったので、まさ子さんはまた訪ねていきました。今度は保護者も一緒に聴いておられます。

 

「最近は子どもを抱いてあやしながら、スマホをやっているママもあると聞きました。でも“気”って伝わるんですよね。心がそこにないと形だけのことになってしまい、うつろな親子関係を作ってしまいます。気をつけたいですね」

 

 まさ子さんが語る話は極めて具体的なので、ママさんの中にはハッとする人もいました。

「一つひとつに思いを込めて、よりよい絆を作っていきましょうね」

 まさ子さんの活動はどんどん広がっていっているようです。

ママさんたちへのアドバイスがキラリと光る木村まさ子さん

写真=ママさんたちへのアドバイスがキラリと光る木村まさ子さん