沈黙の響き (その124)

「沈黙の響き(その124)」

臓器を提供して人の悲しみを救った父親からの手紙

神渡良平

 

 日本臓器移植ネットワークは脳死と判定された6歳未満の女児の両親が、臓器提供を受けなければ生きていけない人たちがいることを知って、女児の臓器提供し、同じような立場で苦しんでいる人たちを救った父親の手紙を公開しました。

 そこには「Aちゃん、ありったけの愛を天国から注いでくれるとうれしいな」という気持ちが書かれていました。子を持つ親の気持ちを吐露したこの手紙は、多くの人の心を打ち、どんどん拡散しているようです。

この手紙はエリザベス・サンダース・ホームの澤田美喜園長が戦争孤児を育てるホームを開設した気持ちを伝えてくれると思ったので、今回はその手紙を紹介します。

 

◇辛くて、寂しくて、最後は落ちている石ころにもお願いしたんだよ

〈Aちゃんが体調を崩してから、お父さん、お母さんは辛くて、辛くて、毎日毎日神さまに無事回復させてくださいとお願いしていました。神社に行ってお願いし、山に行けば山に、川に行けば川に、海に行けば海にというふうに、目に見えるものすべてにお願いしました。最後には落ちている石ころにもお願いしたんだよ。

 

 でもね、どうしても、Aちゃんとお父さんを入れ替えることはできないんだって。もうAちゃんは長くは生きられず、もう目を覚ますことはないんだって……。

 お父さんとお母さんは辛くて辛くて、寂しくて寂しくて、泣いてばかりいたんだよ。

 

 そんなときお医者さんから、Aちゃんが臓器を提供すれば、健康な臓器なしには生きていけない人たちの希望になれることを聞いたよ。今のお父さんやお母さんみたいに、涙にくれて生きる希望を失っている人たちを助けることができるんだって。

 

 どうだろう? Aちゃんは臓器提供をすることをどう思う? いやかな?

 お父さん、お母さんは悩んだ末、Aちゃんの臓器を困っている人に提供することに決めました。もしいやだったらゴメンね。

 

 お父さんもお母さんも、臓器を必要としている患者さんがたくさんいて、その患者さんを見守る人たちがどんなにか辛く苦しい思いをされているか知っています。もしその人たちにAちゃんが役に立てるなら、それは素晴らしいことだと思ったんだよ。

 

 人の命を救う、そして心を救うってすごく難しいことで、お父さんもできるかどうか、わからない。だけど、それはとても素晴らしく、尊いことだよ。

 もしAちゃんが人を救うことができ、その周りの皆さんの希望になれるとしたら、そんなに素晴らしいことはないと思ったの。こんなに誇らしいことはない、Aちゃんが生きた証じゃないかって思ったの。

 

◇ありったけの愛を天国から注いでね

 今のお父さんやお母さんみたいに苦しんでいる人が、一人でも笑顔になってくれれば、どんなに素晴らしいだろう。そしてその笑顔はお父さんやお母さんの生きる勇気になるんだよ。

いつも周りのみんなを笑顔にしてくれたAちゃんだから、きっとまた世界の笑顔を増やしてくれるよね。

 

 命はつなぐものだよ。お父さんやお母さんが命をAちゃんにつないだように、Aちゃんも困っている人に命をつないでくれるかな? お父さんやお母さんがAちゃんにそうしたように、Aちゃんも、Aちゃんがつないだその命に、ありったけの愛を天国から注いでくれるとうれしいな。

お父さんより〉

 

 そしてお母さんからの詩が添えられていました。

 

〈お母さんを

 もう一度

 抱きしめて

 そして

 笑顔を見せて

                                 お母さんより〉

 Aちゃん、天国からみなさんにありったけの愛を注いでくださいね。

写真=いたいけな子どもの笑顔