週刊「先見経済」 連載103

東日本大震災と内省

週刊「先見経済」 連載103

 3月11日、昼2時すぎ、マグニチュード9という巨大な地震が日本列島を襲い、大惨事となった。私はあのとき、自宅書斎で『敗れざる者 ダスキン創業者鈴木清一』を執筆中だった。昭和39年(1964)、世界1のワックスメーカのジョンソン社に自社を乗っ取られた鈴木氏がかねて師事していた一燈園の西田天香師に相談に行った下りを書いていた。鈴木氏はかねがね「損と得あらば、損の道をゆく」を信条としていたが、いざ実際にそういう場面に遭遇すると、信条とは裏腹にはらわたが煮えくり返っていた。ところが天香師は自分も巻き込まれた関東大震災の話をしたのだ。
「私は御殿場近くの汽車の中であの大震災に遭遇しました。東京に入ってみると阿鼻叫喚の巷と化し、燃え盛る紅蓮の炎に巻かれて焼け死んだ人々の遺体をそこここに見ました。想像を絶する大惨事に直面し、私は荒灰につっ伏してお詫びしました。
『関東の方々、どうぞ許してください。私が気づくのが遅かったばかりに、こんな大惨事が起きてしまいました』
 そして京都に引き返すと、それまで住んでいた家を引き払い、裸ひとつで再出発したのです。
鈴木さん、天はあなたの中の甘えを削ぎ落とすために、今度の出来事を仕組まれたのではないでしょうか。あなたが祈りの経営を実践し、道と経済の合一を果たそうとしても、あなたの中にないものは顕現しようがありません。まずあなた中に形成され、次にあなたの会社に実現されていくのです。
今度のことはお光があなたに課した〝行〟だと思いなさい。つらく悲しい行です。でもその行を経て、あなたの中に新しいものが育ったとき、そこから新しいひこばえが芽生えるのです。
誰も恨んじゃいけません。全部自分への諭しだと思って感謝して受けとめなさい」
鈴木はその諭しを聞いて、はじめて人間的迷いが吹っ切れた。そしてもう一度ゼロから出発し、ついにダスキン王国を創り上げたのだった。
私はそんな物語を書いていたのだが、あまりに符合することが多いので驚いてしまった。
実は安岡正篤が『易と人生哲学』(致知出版社)に内省についてこう書いている。
「われわれの欲望というものは、いうまでもなくこれは陽性です。それに対する内省、反省というものは陰であります。欲望がなければ活動がないわけですから、欲望は盛んでなければなりませんが、盛んであればあるほど内省というものが強く要求されます。内省のない欲望は邪悪であります。そして内省という陰の動きは、省の字があらわしておりますように、〝省みる〟という意味と〝省く〟という意味があります。内省すれば必ず余計なものを省き、陽の整理を行い、陰の結ぶ力を充実いたします。人間の存在や活動は省の一字に帰するともいわれる所以であります」
 今回の東日本大震災は私たちに何が必要であり、何が要らないものであるか内省させるための出来事だったと思えてならない。