東京都のM.Kさんからのメール(2017.5)

 2017年5月

 東京都 M・Kより

 

先日、神渡先生の「人は何によって輝くのか」の講演を拝聴させて頂きました。また、昨夜最新刊『自分の花を咲かせよう 祈りの詩人 坂村真民の風光』も読了し、余韻残るの中でメールさせて頂きました。

 講演当日、おみ足悪い中、会場へ登場された時、勝手に父と重ねて著作群を読んできた自分に改めて気づき、講演中は何度も感動と反省が去来しました。

 私の父は40年程前の昭和51年、38歳のときに脳卒中で倒れ、半身不随となりました。当時私は小学2年生、妹と弟はまだ6歳と3歳でした。父はその後リハビリに励んだものの、社会復帰を果たせないまま転々とし、今はリタイヤ生活を送っています。

 私は学生時代、そんな父を怨み、両親には貧乏であることを当り散らし、当時は校内暴力・家庭内暴力まっただ中な時代ですから、ぐれる寸前でした。当時、車イスの口筆画家星野富弘さんが脚光を浴びており、そんな話を聞けば聞くほど、頭にくるだけでしかありませんでした。

 ただ、叔父と伯叔母が7名もいたため、今振り返れば、義叔父母も含め親代わりとして、さまざまな叱咤や援助をしてくれました。そのため右往左往しながらも、何とかまともな社会人へと成長することができました。

 本来なら進学を諦めて就職しても仕方ない状況で、地元進学校へ進ませてもらいました。当時の目標だった医者への道は叶いませんでしたが、地元国立大学へ授業料免除で進学することができました。

 大学時代はコンピューターを専門科目として学びました。しかし、家の経済状態は厳しかったので、仕送りがありませんでした。私は生活費を稼ぐため、バイトに明け暮れる毎日でした。時はバブル絶頂期で、周りの友達はみんな羽振りが良く、苦学生の私はそのギャップに苦しみ、自分自身が嫌になることも多々ありました。ちょうどオウム真理教の揺籃期でオカルトブームでもあったので、社会や親への恨み節が積もりに積もり、危うくそちらへ染まるところでした。

 それらを回避できたのは、1988年大学2年の時、小室直樹先生(2010没)の著作に偶然出合い、社会科学へ衝撃的に目覚め、思想哲学的な本も渉猟する生活が始まったからでした。まさに寝食を忘れる思いで耽読したことを思い出します。小室直樹博士という博覧強記で透徹したまなざしを持っている人に出会い、物事の本質をズバっと分かりやすく説明できることに感銘を受け、私も物事の本質をとらえ、モデル化し、改善を図っていく社会人(会社の仕組みを、IT技術を使って改善する医者のよう)になろうと志したのでした。

 1991年、花王株式会社に就職して社会人生活に入り、神渡先生の『安岡正篤の世界』に出合いました。博覧強記という点では安岡先生の方が小室博士よりも有名で、当然のようにたどり着いた本と言えるかもしれません。安岡先生の著作は20代前半の凡人にはとても難しく、神渡先生の本で分かり易く解説頂いたと言えるかもしれません。以来、神渡先生の著作群は拝読してまいりました。

 地道にコツコツ真剣にやっていれば、私にも光明がさす日が来るかもしれないと、少し温かい気持ちになったと記憶しています。その後も、佐藤一斎や西郷隆盛の艱難辛苦を乗り越える話など、著書から薫陶を受けながら、自分自身を鼓舞する日々を送ってきました。

 正直、未だ「天に棄物なし」の境地には至ってませんが、いつかそう思えるようになりたいと思っております。天命に気づけないまま終わる人生ではありたくないと思っております。私は現在ある企業のITシステム部門を統括しております。

また、講演で言及された坂村真民さんの詩にはいたく励まされました。今の会社に移る前から、真民さんの詩には触れてはいました。真民さんの詩にはハッとさせられる視点や発想があり、とても胸に刺さりました。私自身、いろいろと恨んだり、嘆いたり、クサッたり、愚痴ったりしていたので、真民さんの詩で私を戒めて頂いたと思っています。

 今回の講演を拝聴して思い返すと、神渡先生の著書を読み、「こんな親父だったら良かったのに」という思いが裏にあったのかなと思います。半身麻痺で仕事をしていなくても、私が悩んだ時、何か一言二言助言してくれる親父であってほしかったと夢見ていたのかもしれません。

 最後に、今回の講演を聞き、内観法的なことを30歳の時に自然にしていたことを思い出しました。仕事も恋愛も何もかも壁にぶつかり、悩みに悩んで落ち込んでいた時、なぜか自分自身の生い立ちから振り返ることを自然にやっていました。そうしたら、両親の立場に立って物事を見る事ができるようになっていました。さまざまな愛情に触れながら成長できていたことに感謝し、自分が当時の両親の立場なら同様のことを踏ん張れていただろうかなど、涙を落している自分がいました。そんなことに気づき、ギリギリで父の還暦の祝いをすることが出来、その後も喜寿の祝いもすることができました。

 今回の講演を拝聴し、内観したことを忘れている自分に気づき、絶妙のタイミングで大事なことを思い出させていただきました。実は、今年両親が11月に金婚式を迎え、傘寿の祝いの年に当たります。それを我々兄妹弟と孫たちで祝ってあげたいと思いました。先生のご講演を拝聴したからこそ、思い出せたと思っております。ありがとうございました。

 また、内観した時に誓った両親への夢が実現していないことも思い出せました。幸い、まだ両親が健在であることに感謝し、生きているうちにできる限り親孝行を1つ1つ実践していきたいと思っています。

 末筆になってしまい恐縮ですが、神渡先生のご健康とご多幸を心より祈念しております。本当にありがとうございました。