大空と雲と光

沈黙の響き (その68)

「沈黙の響き(その68)」

とても評判がいい、ある特養施設の介護士さん

 

 

≪自助努力がもたらす効用≫

私が先週と先々週、2回にわたって、パラリンピックで熱戦をくり広げている障害者たちから得た感動を書いたからか、東真理子さんという介護の仕事をされている方からメールが入りました。東さんは先週、84歳の目のご不自由なご婦人をダンスホールにお連れするという同行援護をしたそうです。約5時間付き添われたのですが、「不思議な感動があり、私の方が元気をもらいました」と書いておられました。

 

「そのご婦人は認知症がまったく無く、足腰もとても丈夫です。ただ全盲に近く、目がご不自由なのに、ひとり暮らしで家事も洗濯もご自分でされています。それに週1回、ダンスに通うのが楽しみで、その同行援護を私がすることになりました。同行援護中、明るくお話されるご婦人に圧倒されるものがありました」

“自立する”と自分の運動機能も維持でき、頭も明晰になるようです。自助努力は結局自分のためでもあるようです。

 

 パラリンピックに出場した選手たちは口をそろえるように言います。

「パラ競技に出合ったことから、目標を持って励むようになりました。努力のかいがあってタイムが向上すると、もっと上を目指そうとさらに励みました」

 自助努力こそはその人を活かす方法であるようです。

 

≪一対多の関係から“一対あなた”という特別な関係へ≫

 東さんはもともと介護のあり方に関心があり、いろいろな施設を見学しました。その後、

お母さんが2つの介護施設で7年近くお世話になったこともあって、いっそう介護のあり方に関心を持つようになりました。そこで個別対応している施設の介護士さんの投稿をネットで読んでいると、ある特別養護老人ホームの介護士さんが、次のような投稿をされていました。さすがにポイントを突いておられたので、私に転送してこられました。教えられる内容だったので、この欄でシェアしたいと思います。

 

「私たちは入居者さんとは入所されてから関係が始まるので、出会いはまったく偶然といえます。でも、片麻痺の人、車イスの人、認知症の人といった方々をトイレにお連れしたり、ご飯を一緒に食べたり、お風呂でのんびりお話したりする日常生活の支援を繰り返しているうち、一対他の関係から“私と○○さん”という特別な関係になっていきます。というよりも、そんな関係になれるよう心がけています。

 

気になる方だからこそ、その人らしい生活を支えたいと思い、昔どうやって過ごしておられたのか、どんな仕事をしておられ、どんなことが趣味で、どんな暮らしをしておられたのか気になります。その方が大切にされていたことを尊重し、一緒に大切にしていきたいと思うのです。

 

 入居して最初は元気だった方もやはり少しずつ衰えていかれ、1日のほとんどを寝て過ごすようになられます。でも、その方がふと目を開けたとき、大切にしている思い出がすぐ目に入るよう、枕元の写真額の配置を変えたりします。

 

それは『あなたの過去を大切にしています。そして、これからもあなたのことを大切にしますね』というメッセージです。写真の選択や額の配置などに、『あなたと明日もともに過ごしたい』という思いが伝わるよう配慮しているから、大切な“今”が輝くのだと思います」

 

これを読んで東さんは心を動かされました。介護する際の一番大切な点を心掛けておられたからとても共感しました。

「ふと目を開けたとき、飛び込んでくるように配置された孫の笑顔の写真。ちょっとしたことに表れている配慮。そこにあるのは“私とあなた”という特別な関係――。その方は施設で欠けがちな、しかしとても重要な“人と人との関係作り”を大切にされているように思いました」

 

私は先に、東さんのメールを通して、自助努力の効用を紹介しましたが、それと同時にこの介護士さんはもう一つ、“その人を大切にしたい”という思いがそのお年寄りをどれほど元気付けているか、伝えておられるように思います。

 

介護現場は忙しく、どうしてもベルトコンベアー式の流れで効率優先になりがちです。だからこそちょっとした配慮が生きてきます。自助努力とともに“私とあなた”という特別な関係をつくることは、クルマの両輪のように補完し合っているように思います。

大空と雲と光

写真=私たちの心に喜びを与えてくれる愛と思いやり