日別アーカイブ: 2020年7月25日

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沈黙の響き (その4)

2020.7.25

楽曲「ユー・レイズ・ミー・アップ」は人生の応援歌だ

 

 

アッシジのフランチェスコはなぜあれほどまでにイエスに惹かれたのだろうか――。

わたしはその理由を窓から射す淡い星明りに照らされた病室で考えました。そのとき、どこからともなく「ユー・レイズ・ミー・アップ」(You Raise Me Up=あなたがわたしに勇気をくれた)のメロディーが聴こえてきました。

 

ユーチューブで「ユー・レイズ・ミー・アップ」を検索すると、深夜のゲッセマネの園で血の汗を流して祈られるイエスの動画を背景に、「ユー・レイズ・ミー・アップ」が流れてきました。映像は(もや)がかかった木立ちを背景にして、イエスやペテロやヨハネが黒いシルエットで描かれており、しみじみと迫ってくるものがありました。

 

 ♪とても気が滅入って 苦境に遭って心が折れそうになるとき

 静けさの中でわたしはじっと待っている 

あなたがここに来て座ってくれるのを

 

 あなたがわたしに勇気をくれた だから山頂にさえ立てるんです

 あなたがわたしの背中を押してくれました この荒波を越えるようにと

 わたしは強くなれる あなたの支えがある限り

あなたがわたしを励ましてくれました

わたしが思っている以上に

 

歌唱はサビの部分に入り、人生の伴侶によって限りない力を得て、道が開けていったことを感謝して、アーティストが声の限りに歌います。まさに魂の叫びがほとばしり出ます。

 

♪あなたはこんなわたしでも立ち上がらせてくれました

嵐が吹き荒れる荒海を乗り越えるようにと

あなたは頼りないわたしを励ましてくれました

だから山頂にさえ立つことができます

わたしは強くなれる あなたの支えがある限り

あなたが背中を押してくれました

あなたが想像している以上に

 

聴き終えた瞬間、これはフランチェスコがもっともイエスに言いたかったことではないか! と感じ入りました。フランチェスコが小さき兄弟会という修道会を立ち上げ、それがカトリック教会自体を刷新していったのも、すべてはイエスに励まされて形になったのでした。わたしは何度もこの曲に聴き入り、フランチェスコの力の源泉だったイエスのことを偲びました。

 

 この楽曲はアイルランドとノルウェーのミュージシャン、シークレット・ガーデンが作ったもので、二〇〇三年、アイルランドの歌手ダニエル・オドネルがカバーしてヒットし、その後、多くのアーティストが歌うようになりました。日本ではアイルランドの五人組ケルティック・ウーマンが歌っているカバーが有名ですが、わたしは老境に差しかかったオランダの歌手マーティン・ハーケンスが自分の人生を振り返りながら、テノールの渋い声でしっとりと歌っているのがなおいっそう心に響きます。

 

聞けばハーケンスはテノールのオペラ歌手を目指したけれども念願を果たせず、食べるためにパン職人になったそうです。その間もレッスンを続けましたが、チャンスは訪れず、挙句の果ては失職してしまいました。ハーケンスは路上ミュージシャンとなって、街頭で歌を披露し、なにがしかの献金をもらって生計を立てていました。

 

それを娘さんが見るに見かねて、本人に無断でテレビのオーディション番組に応募したところ、あれよあれよという間に勝ち抜いて、とうとう優勝してしまいました。ご褒美はCDの発売で、とうとう念願のデビューを果たしました。このときハーケンスはすでに五十七歳になっていました。ハーケンスは「ユー・レイズ・ミー・アップ」で描かれているような人生を経験し、辛酸を()め尽くしたからこそ、人々の心に響くような歌を届けることができたのです。

 

人生はうまく行っている場合だけではありません。どんなに頑張ってもうまくいかず、疲れ果て、うずくまってしまうときもあります。そんなとき、誰かが隣に座り、話を聴いてくれ、悲しみを分かちあってくれたら、どんなに気持ちが晴れ、もう一度挑戦しようという気力が沸くものです。