日別アーカイブ: 2021年10月2日

一世を風靡したサイモンとガーファンクル

沈黙の響き (その69)

「沈黙の響き(その69)」

サイモンとガーファンクルが歌う「サウンド・オブ・サイレンス」

 

 

 私がまだほんの子どもだったころ、つまり1960年代、ギターを弾くユダヤ系アメリカ人のポール・サイモンと、ボーカルを担当したモジャモジャ髪で背が高いアート・ガーファンクルというフォーク・デュオが歌い出しました。

 

Hello darkness,
my old friend

I’ve come to
talk with you again

 

やぁ暗闇くん、古くからの友達よ

また君と話したくて来てしまった

 

Because a vision
softly creeping

Left its seeds
while I was sleeping

 

And the vision
that was planted in my brain

Still remains

Within the sound
of silence

 

というのは、あるヴィジョン(幻)が、

僕が寝ている間にそっと忍び寄り、

かすかな痕跡を残して行ったんだ――

 

それから10年ぐらいして10代の後半、「サウンド・オブ・サイレンス」を聴いたとき、「サイモンとガーファンクルは何と哲学的で深遠な歌を歌うんだろう」と感嘆したものです。サイモンはこうした曲を書くようになった経緯をこう述べています。

「ぼくは“無音の響き”に触れてしまった――」

宇宙の根源につながっている無音の世界は、実は潤沢な創造性の泉だったというのです。ユダヤ人であるサイモンは、宇宙の根源者である“神”について考えることが多く、それが音楽にもかかわっていると気づいたのでしょう。

 

≪“沈黙の響き”が導く奥深い世界≫

心臓手術を受け、大きな覚醒をいただいてからの私は著述のなかで、しばしば“沈黙の響き”に言及するようになりました。“沈黙の響き”は創造性の源泉だと思うからです。

“沈黙の響き”に耳を傾けると、宇宙の叡智の扉が開き、清らかな泉から清水がこんこんと湧き出てきます。そして自分は地上における受信局であることに気づき、その感性を研ぎ澄まし、宇宙の叡智からのメッセージをキャッチしようとします。

 

“沈黙の響き”に耳を傾けるようになると、かすかに“内なる声”が聴こえてきます。この2つは連動しているので、自分の内側に無限のソースがあることに気づくのです。そのメッセージが音楽家の場合は曲目として、画家の場合は絵画として、作家や思索家の場合は小説や思想として表現されていきます。

 

 ミクロの世界から人間社会、宇宙までを貫く原理とその構造を探究する「システム哲学」を提唱し、世界賢人会議「ブダペストクラブ」を主宰しているアーヴィン・ラズロはこのことをこういう直接的な表現でしています。

「人間は変性意識状態に入ると、現実のもっとも深く基本的なレベルである“真空”と同化することができる」

 

ラズロのいう“真空”とは“宇宙の始源”のことで、“サムシング・グレート”(大いなる存在)でもあります。変性意識状態とは通常の覚醒時のベータ波意識とは異なり、精神や肉体が極限まで追い込まれた状態で起こるものです。事故や手術などによって生命が危機にさらされると、この意識状態になります。

 

≪変性意識状態は宇宙への入り口だ≫

 変性意識状態に入ると人間は宇宙との一体感や強い至福感などを味わい、ときにその人の世界観を一変させるほどの強烈な体験を持ちます。変性意識状態は生命の危機だけでなく、宗教的修行や瞑想によっても入ることができるので、トランスパーソナル心理学は特に力を入れて研究しています。

 

ラズロが指摘していることをトランスパーソナル心理学会の創始者の一人であるスタニスラフ・グロフはこう述べています。

「深い変性意識状態では、多くの人々が宇宙そのものの意識と考えられるような意識の体験をする」

 

 世界の最先端を行く学者たちが「沈黙の響き」に注目し、研究を深めていることは心強いことです。いえ、最近の思想界の新潮流だけでなく、哲学界の大元に位置するプラトンも現象世界は宇宙の本質であるイデア界の実相が具現化したものだと説いていると、私の友人が、 教えてくれました。世界の賢人たちはこのことに気づき、思索を深めていたんですね。人間は決して有限ではなく、無限の存在であり、自分は地上のかけがえのない受信局だと思うと、喜びがふつふつと湧いてきます。(続く)

一世を風靡したサイモンとガーファンクル

写真=一世を風靡したサイモンとガーファンクル